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米国サイバーセキュリティの進化 ― AIが「守る力」を変える

米国サイバーセキュリティの進化 ― AIが「守る力」を変える。
米国の最先端サイバーセキュリティ会社:Palo Alto Networks・CrowdStrike・Rubrikの最前線
前回は、OpenAI・Anthropic・Google・Microsoft・AWSなど100社を超える企業が、AI時代のサイバー防衛について異例の共同声明を発表したことを紹介しました。
では、米国では実際に何が起きているのでしょうか。注目すべきは、AIによって攻撃が巧妙になっていることだけではありません。攻撃を「防ぐ」「見つける」「止める」「元に戻す」という一連の作業そのものが、AIによって大きく進化しつつあることです。
その最前線を走る代表的な3社が、Palo Alto Networks(パロアルトネットワークス)、CrowdStrike(クラウドストライク)、Rubrik(ルブリック)です。3社のやり方は違いますが、共通しているのは、
・ 防ぐ → 見つける → 判断する → 止める → 元に戻す
という一連の流れを、AIとデータの力で速く・自動的にしようとしている点です。
1.AIサイバーセキュリティを引っ張る3社
■Palo Alto Networks ― バラバラだった防御をひとつにまとめる
Palo Alto Networksは、世界最大級のサイバーセキュリティ会社です。企業のシステムを守るには、社内ネットワーク、クラウド、社員のパソコン、社員ID(本人確認の仕組み)など、いくつもの製品を組み合わせる必要があります。しかし製品がバラバラだと、その「つなぎ目」が攻撃者に狙われやすくなります。
そこでPalo Alto Networksが進めているのが「プラットフォーム化」、つまりこれらをひとつにまとめる戦略です。代表製品のCortex XSIAM(コーテックス・エックスサイアム)は、これまで人間のセキュリティ担当者が手作業で行っていた大量の警告の確認や、攻撃かどうかの判断、対応の指示を、AIが自動で行います。「人間が異常に気づいてから対応するSOC(Security Operation Center、セキュリティを24時間見張る部署)」から、「AIが常に見張り、必要なときだけ人間と連携するSOC」への転換を目指しています。
■CrowdStrike ― 「見つける」から「24時間、その場で止める」へ
CrowdStrikeは、パソコンやサーバー、クラウドを守る技術で急成長してきた会社です。中核製品のFalcon(ファルコン)は、パソコンやサーバー、社員IDから集めた膨大な記録をAIで分析し、攻撃者らしき異常な動きを検知します。
CrowdStrikeの特徴は、ソフトを売るだけで終わらないことです。代表サービスのMDR(Managed Detection and Response、専門家が24時間体制で監視・対応してくれるサービス)は、「異常を知らせる火災報知器」だけでなく、「24時間365日、消防士が待機していて、火が出たらすぐ消しに来てくれる仕組み」に例えられます。AIエージェントの「Charlotte AI(シャーロットAI)」が調査や報告を自動で行い、人間の専門家がすぐに対応します。
このMDRを実際のサービスとして提供しているのが「Falcon Complete(ファルコン・コンプリート)」です。CrowdStrikeの専門チームが24時間365日、顧客企業のシステムを見張り、異常があればCharlotte AIによる自動調査と合わせて、実際に攻撃者を締め出す対応まで代行します。つまり企業側は、高価なセキュリティ専門チームを自社で雇わなくても、CrowdStrikeの専門家チームをそのまま「借りる」形で、24時間体制の防御を手に入れられる、というサービスです。
■Rubrik ― 「完全に防ぐ」から「攻撃されても止まらない」へ
3社の中で少し違う役割を担うのがRubrikです。Rubrikが重視するのは「サイバー・レジリエンス(サイバー攻撃を受けても事業を止めない力)」という考え方です。
どんなに強く守っても、攻撃を100%防ぐことはできません。だからこそ大切なのは、「侵入されても大事なデータを守り、素早く復旧し、事業を再開できること」です。特にランサムウェア(データを暗号化して身代金を要求する攻撃)では、普段使うデータだけでなく、バックアップ(控えのコピー)まで壊されると、企業は長期間止まってしまいます。Rubrikは、データの保護・監視・復旧をひとつにまとめ、「攻撃されたあとの立ち直り方」を専門にしています。最近ではこの考え方をAIにも広げ、「Rubrik Agent Cloud(ルブリック・エージェント・クラウド)」でAIエージェント自身の異常な動きを見張り、問題が起きればすぐに安全な状態に戻す仕組みを提供しています。
2.3社のAIサイバーセキュリティ比較(重要)
3社はいずれもAIを活用していますが、得意分野も使い方も異なります。以下にまとめました。
項目 | Palo Alto Networks | CrowdStrike | Rubrik |
ひとことで言うと | 会社のセキュリティ機器をひとつにまとめる会社 | パソコンやサーバーを24時間見張り、攻撃をすぐ止める会社 | 攻撃されても大事なデータを守り、素早く元に戻す会社 |
得意な場面 | ネットワーク・クラウド・社内システム全体をまとめて守る | 侵入をいち早く見つけて、その場で止める | データを壊されたあと、元通りに復旧する |
AIの使われ方 | 大量の記録をAIが自動で読み取り、危険な動きを判定・対応する | AIが調査・報告を代行し、専門家チームと24時間体制で対応する | AIエージェント自身の挙動を見張り、異常があれば自動で安全な状態に戻す |
代表的なAI製品 | Cortex XSIAM(コーテックス・エックスサイアム) Prisma AIRS(プリズマ・エアーズ) | Charlotte AI(シャーロットAI、自動調査するAI) Falcon Complete(ファルコン・コンプリート、24時間対応してくれる専門家チームのサービス) | Rubrik Agent Cloud(ルブリック・エージェント・クラウド) Rubrik Security Cloud |
たとえるなら | 会社全体の警備をひとつの管制室で見る「統合警備システム」 | 24時間常駐して駆けつける「警備員チーム」 | 火事になっても大事な書類を守る「耐火金庫+非常用コピー」 |
強み | 幅広い製品を一つにまとめられる。大企業での導入実績が豊富 | 攻撃を検知したら、すぐに人(専門家)が動く体制が強い | 攻撃された後の「立ち直り」が早い。身代金を払わずに済む設計 |
簡単に言えば、Palo Alto Networksは「守りをひとつにまとめる」、CrowdStrikeは「24時間その場で止める」、Rubrikは「攻撃されても立ち直る」ことにそれぞれ強みがあります。3社とも2026年には、AIエージェント自体を守る新しい仕組み(Prisma AIRS/Falcon AIDR/Rubrik Agent Cloud)を投入しており、「AIを守るAI」という新しい市場を切り開いている点は共通しています。
参考:3社の売上高(会社の規模の目安)
3社の直近1年間の売上高(会社が実際に受け取った金額の合計)は以下の通りです。
会社名 | 直近1年間の売上高 | 前の年からの伸び |
Palo Alto Networks | 114.8億ドル(約1兆7,200億円) | +24% |
CrowdStrike | 48.1億ドル(約7,200億円) | +22% |
Rubrik | 13.2億ドル(約2,000億円) | +48% |
なお、3社とも「AI関連の売上だけ」を切り分けて公表してはいません。ただし各社とも、今回ご紹介したAIを使った新しい製品・サービスが、それぞれの会社の中でとくに伸びている分野であり、上記の高い伸び率(22〜48%)の主な原動力になっている、と各社は説明しています。
■日本支店および日本の会社との提携
3社とも日本法人を構え、日本のIT大手と提携しながら国内展開を進めています。
・ Palo Alto Networks:日本法人「パロアルトネットワークス株式会社」(東京)を展開。2026年8月、NTTデータグループと、企業のAI導入の安全性確保やサイバーレジリエンス強化を目的とした複数年にわたるグローバル戦略提携を締結(両社で2029年末までに10億ドル規模の共同事業創出を目指す)。NTTデータは同社のパートナー認定制度で、日本を含むアジア太平洋地域の最高ランク「Theater Diamond」も取得している
・ CrowdStrike:日本法人「クラウドストライク合同会社」(東京)を展開。国内ではマクニカ、ネットワールド、SB C&Sの3社が販売代理店(ディストリビューター)を務め、大企業から中堅・中小企業まで幅広く導入を支援。NTTデータとも共催セミナーなどで連携している
・ Rubrik:日本法人「Rubrik Japan株式会社」(東京)を展開。NTTデータとの間で、ランサムウェア対策を含むサイバーレジリエンス強化に向けたグローバルパートナーシップを締結。国内では金融、教育、製造業、エンターテインメントなど幅広い業界で導入が進んでいる
3社に共通するのは、NTTデータをはじめとする日本のITサービス大手と提携し、自社の技術を「日本語でのサポート付き」で提供する体制を整えている点です。日本企業が米国発の最先端AIセキュリティ技術を導入する際の入り口として、こうした国内パートナー企業の存在は重要な意味を持ちます。
3.導入はどこまで進んでいるか ― 大企業と中小企業
ここで一つ区別しておきたいことがあります。「企業がAIを導入している」という話には、(1)社内の業務効率化のためにAIエージェントを使う話と、(2)今回ご紹介したような、AIを搭載したサイバーセキュリティ製品を防御に使う話の、2種類があります。ここでは(2)、つまりAIを使ったセキュリティ製品そのものの導入状況に絞って見ていきます。
大企業(Fortune 500):すでに「標準装備」に近い
Fortune 500とは、米国の売上高上位500社のことです。各社の発表によれば、Palo Alto Networksの製品はFortune 500企業の55%、Fortune 100企業(上位100社)の85%で使われています。CrowdStrikeのFalconはFortune 1000企業(上位1000社)の50%超で導入済みです。第三者機関の分析(2023年時点)でRubrikについても、Fortune 500企業の40%超が導入済みとされ、2026年にはAIエージェントを守る新製品についてもFortune 500企業を含む複数社で試験導入が進んでいると報告されています。
(参考)マイクロソフトの調査では、Fortune 500企業の80%以上が、業務効率化のための何らかのAIエージェント(社内業務を自動化する仕組み)をすでに使っています。ただしAIエージェントを安全に使うための対策を導入している企業は47%にとどまるとも報告されています。これは今回ご紹介したセキュリティ専門企業の製品導入率とは別の調査ですが、「AIの利用が広がる速さに、守る側の対策が追いついていない」という同じ課題を裏付けるデータといえます。
中小企業:一部で導入が進むが、道半ば
通信会社Verizonが米国の中小企業を対象に行った調査では、過去1年間に47%の企業がセキュリティを強化するための新しい仕組みを導入し、そのうち25%がAIを使ってセキュリティを強化したと回答しています。大企業に比べるとまだ少数派ですが、中小企業でもAIを活用したセキュリティへの関心は着実に高まっています。
一方で、実際に踏み出せない中小企業も少なくありません。中小企業の技術導入を調べた別の調査(Clutch, 2025年)では、導入における課題として「社内に詳しい人材がいない」(26%)、「コストの上昇」(15%)が上位に挙がっています。AIを使ったセキュリティサービスは、サービスの内容や規模によって料金の幅が大きく、一概に「安くなった」とは言えませんが、「選び方が分からない」「使いこなせる人がいない」という壁が、価格そのもの以上に導入を妨げているようです。
4.サイバーセキュリティと「保険」がつながり始めた
米国でもう一つ注目すべき動きが、サイバーセキュリティと保険の連携です。
象徴的な例が、CrowdStrikeの「Project QuiltWorks(プロジェクト・キルトワークス)」です。2026年5月、この取り組みが保険会社にも広がり、Coalition、Liberty Mutual Insurance、Marsh、Resilience、Locktonといった保険・保険仲介の大手が参加しました。目指しているのは、
・ AI時代の新しいリスクを見つける
・ 優先順位をつけて技術的に直す
・ それでも残るお金の面のリスクは、保険で備える
という一連の流れをつなげることです。従来、企業の「セキュリティを担当する部署」と「保険を担当する部署」は別々に動くことが少なくありませんでした。しかしAIによってリスクの中身が刻々と変わる時代には、この二つを分けて考えること自体が非効率になりつつあります。
またRubrikのようなデータ復旧の技術も、保険会社にとって重要な意味を持ちます。攻撃を受けた企業が短時間で安全に復旧できれば、事業が止まる期間が短くなり、それは保険会社が支払う保険金の減少にもつながるからです。つまりサイバーセキュリティ企業は、「企業を守る会社」から「企業のリスクそのものを小さくする会社」へと役割を広げ始めています。
TW コンサルティングの視点
今回、米国の動きを見て重要だと考えるのは、サイバーセキュリティという言葉そのものの意味が変わりつつあることです。第一に、AIによって攻撃が巧妙・高速になる一方、守る側もAIで自動化・高速化しています。第二に、「侵入を防ぐ」だけでなく、「攻撃されても立ち直る力(サイバー・レジリエンス)」という考え方が広がっています。第三に、その先で保険との連携が始まっています。
今後の企業のリスク管理は、
・ 守る → 見つける → 対応する → 元に戻す → 保険で備える
という一つのつながった仕組みへ進化していく可能性があります。これは日本企業や日本の保険会社にとっても重要な変化です。日本企業でもAIエージェントの導入が本格化すれば、AI時代に対応したサイバー防衛への移行は避けて通れません。そして保険会社にとっても、事故が起きたあとの補償だけでなく、Palo Alto Networks、CrowdStrike、Rubrikのような企業やその技術と連携し、「事故を減らす」「攻撃を早く止める」「被害を小さくする」「早く復旧させる」ところまで、保険の役割を広げていくことが重要になると考えます。
Claude Mythos 5.1、GPT-6 Astra、Gemini 3.8 Flash、Grok 4.6など、より高性能な生成AIモデルの発表が、ここ数週間だけでも相次いでいます。8月27日のOpenAIの公開書簡が警告する通り、防御側が備える時間は決して長くありません。日本企業、特に病院や介護施設など人命に直結するインフラにとって、AI時代のサイバー防衛はもはや先送りできる経営課題ではありません。攻撃者は常に「守りが手薄な標的」を探しており、対応の遅れや脆弱性が外部から見えてしまえば、それ自体が攻撃を招き寄せるリスクになりかねません。
・ 日本企業のなかで、AIを活用したサイバーセキュリティを導入している会社は何%あるでしょうか。
・ 日本で、Rubrikのように「攻撃を受ける前提で、いかに早く元の状態に戻れるか」というAIレジリエンスを導入している会社は何%あるでしょうか。
次回は、この変化をすでに保険商品として実現し始めている米国企業、CoalitionとAt-Bayを取り上げ、日本のサイバー保険との違いを詳しく見ていきます。
変化を、新しい保険の可能性へ。
TW Consultingは、AI・AIエージェント、デジタル金融など、世界で起きている変化を捉え、そこから生まれる新しいリスクと保険の可能性を探究しています。
新商品・新規事業の検討、経営・事業戦略のアドバイザリー、社内勉強会・セミナー・講演など、ぜひお気軽にご相談ください。
未来の保険を、一緒に創りませんか。
用語集(本文に出てくる略語・専門用語)
AI(人工知能):人間の判断や作業を、コンピューターが代わりに行う技術
SOC(ソック):Security Operation Centerの略。企業のシステムを24時間見張る専門部署
MDR:Managed Detection and Responseの略。専門家が24時間体制で監視し、攻撃を見つけて止めてくれるサービス
EDR:Endpoint Detection and Responseの略。パソコンやサーバー1台1台の異常を検知する仕組み(MDRはこの仕組みを使って人間が24時間対応する「サービス」)
ID:本人確認や、社員一人ひとりのアクセス権限を管理する仕組み
Fortune 500:米国の売上高上位500社のランキング。Fortune 100は、その中の上位100社
ランサムウェア:企業のデータを勝手に暗号化し、元に戻す代わりに身代金を要求する攻撃
サイバー・レジリエンス:攻撃を完全には防げないという前提に立ち、攻撃されても被害を抑え、早く立ち直る力のこと
出典・参考資料
OpenAI「A call for collective action on cyber defense」公開書簡(2026年8月27日)
Palo Alto Networks「Fiscal Fourth Quarter and Fiscal Year 2026 Financial Results」(2026年9月1日)/同社サイト「Customers」ページ(Fortune 500/100導入率)
CrowdStrike「Fourth Quarter and Fiscal Year 2026 Financial Results」(2026年3月3日)/Programs.com「The 20 Largest Cybersecurity Companies in 2026」(Fortune 1000導入率)
Rubrik「Fourth Quarter and Fiscal Year 2026 Financial Results」(2026年3月12日)/同社決算説明会(Agent CloudのFortune 500試験導入への言及)/SnoQap「Rubrik's Financial Evolution」(Fortune 500導入率、2023年時点)
Microsoft「2026 Cyber Pulse」レポート(Fortune 500企業のAIエージェント利用率・対策導入率)
Verizon Business「State of Small Business Survey」(中小企業のセキュリティ投資・AI活用実態)
本資料はTWコンサルティング株式会社が作成したものであり、内容の正確性には万全を期していますが、最終判断にあたっては原典をご確認ください。っては原典をご確認ください。
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